特別平和学習会(イ・デス牧師)

特別平和学習会「3・1運動100周年記念について」

日時:2018年8月18日(土)10時~
場所:大阪南YMCA
講師:イ・デス牧師(韓国民主化運動家・韓日反核平和連帯事務局長)

1.崔 勝久氏による紹介
イ・デス牧師は韓国の私学の名門校である延世(ヨンセ)大学で学生運動を始め、退学になるなど騒動の中で牧師の道を選んだ。韓国では学生運動した人には、非常に多く牧師になって継続して運動をするという流れがあるようです。イ・デスさんはそのリーダーで、民主化闘争をしてきた。イ・デスさんの役割は、韓国と日本との間をつなぐいとうことで、よく地方も回っている。韓国の中の牧師の中で最も日本通です。
今回のイ・デスさんとの話し合いは、韓国の市民運動をした人、民主化運闘争をした人、アジアの交流を図っている人が具体的にどのような考えで、憲法を考え、何をしようとしているかということの問題意識を皆さんに話してもらって、お互いにすり合わせることです。

2.イ・デスさんの話
(1)朝鮮半島の戦争終結
日清戦争の戦場は、朝鮮半島であった。その時に農民が立ち上がり、3・1につながっていった。キャンドル市民革命は、朴大統領を退陣させ、文大統領を誕生させた大きな原動力でした。これは2段階で進んだ。1段目は朴大統領を追放であり、2段階目は文大統領の誕生である。今は3段階目に突入している。経済上、政治上、北朝鮮との関係を含め新しい段階に突入している。3段階で最も重要なのは、南北戦争を終結させて平和に向かうという段階である。
朝鮮労働党の大会が、平壌と38度線の近くであり、戦争を終結するという話がでた。そこで終戦のフェスティバルをやったそうです。重要なことはこれで戦争は終わったといことです。南北の宣言、アメリカと北朝鮮との宣言で、朝鮮半島で戦争は終わったという認識で北とも一致している。それは政治の当事者が戦争は終わったと言っている訳でなく、我々市民が北も南も戦争が終わったということを訴えています。指導者が戦争は終わったといっているだけでなくて、南北市民が我々の戦争は終わったということを叫んでいます。
ろうそく革命と戦争終結は繋がっている。これは韓国が市民革命で民主的な政権を立てたことによって実現したことです。これは100年の朝鮮の李朝末期から現在に至る抵抗及び戦争を経てきて到達したものです。それは国民が100年の歴史の闘いの中で学んできた成果です。これは非常に重要で韓国は民主主義を作り上げたという成果である。本当に血と汗で作り上げたものです。

(2)韓国の憲法
安倍は9条を改定して戦争のできる国にしたいということで動いているが、それに対して市民の大きな動きがある。第二次世界大戦の後、日本をどういう国にすれば良いかをアメリカが考えて、そして作り上げたのが平和憲法です。日本の平和憲法と韓国の憲法と比較してみます。北の憲法は金日成体制を強調しています。日本の憲法は平和という意味では非常に優れたものですが、しかし1条から8条までは天皇に関することが書かれている。帝国憲法に比べれば天皇に関して変化はあるが、しかし憲法全体をみると1条から8条まで天皇のことが書かれている。日本では日本の平和憲法は世界の3つの優れた憲法であると言われているようですので、韓国の憲法と比較してみます。韓国憲法の1条は民主共和国であることが書かれている。次に2条で全ての権力は国民からでる。私からみるとそれが日本と韓国の憲法の決定的な違いです。韓国憲法は、3・1独立運動の展開によって、1919年4月11日 に中国上海で構成された臨時議政院で前文と10ヵ条から成る「臨時憲章」に基づいている。ここで韓国は民主共和国であると書かれており、韓国国民は100年前からの伝統を持っている。韓国の100年の民主主義をつくる中で実現されたのが、人民共和国という概念です。その当時の人は、日本から学んで宣言の中につくった。日本で憲法を勉強した韓国人が韓国の憲法の草案をつくった。天皇中心につくられて帝国憲法の時代に韓国は人民共和国だという概念を打ち出していた。ロシア革命とか孫文の辛亥革命などの影響を受けていた。100年前に韓国はアジア全体の大きな流れの中でスタートした。来年3・1運動が100年になるけれど、韓国がこの100年の中で獲得してきた民主主義というものを逆に韓国からアジアの国々に伝達をしないといけないと考えている。中国にもアジアのいろんな国々に、韓国が経てきた100年の人民共和国という民主主義は何かということを伝達しなければならない。民主主義というものが発展させていく中心の概念であり、それに敵対するものは戦争であり、その戦争をするのはアメリカの軍産複合体であり、日本の戦争をしようとする勢力である。

(3)民主化運動の現状と将来
韓国は財閥が強くて貧富の差が激しくて、今、財閥に対する闘いを始めて変化がでてきた。韓国の財閥は、日本の財閥の真似をしたものである。それを変革するという大変苦しい戦いを自分たちはやり始めている。それから経済の不均衡、格差をなくすことによって民主主義というものが実現される。私たちとしては、ヨーロッパの連合のようにアジアが民主主義の連合体として進んでいくことを希望している。アジア全体として民主主義の共同体として一緒になれば良いと考えている。ヨーロッパは経済共同体としてスタートしました。ヨーロッパは多くの戦争を経験したが、アジアも同じで戦争があったのですが、その経験の上にアジアの民主主義の共同体としてつくれないか。南北朝鮮、日本と北朝鮮との関係、中国との関係が良くなれば、アジアの平和が実現可能である。南北の宣言、米朝の宣言のように戦争しないという体制が出来上がればアジアの平和は実現できる。

(4)環境問題
今年は日本でも酷暑であるが、これは地球温暖化の影響であり、これは今年だけでなくて、将来に亘って続くものと考えている。それを皆で一緒に解決しないと、地球の将来に対する期待ができなくなる。中国は温暖化に対する対策を既に考えているようだ。中国の指導者達は、現代文明に対する革命をしなければならないと考えている。それは大変重要な視点です。中国は人口も多く、エネルギーを浪費していると思われるかも知れないが、中国の大都市に行くと全てEV車です。それは独裁国家ということもあるが、地球環境の破壊を防止するということで具体的な政策をスタートしている。中国の大都市に行くと自転車を皆が使えるようにレンタル施設が設備されている。日本でも自転車の共有化ということが言われているが、中国では既に広く自転車の共有化が進んでいる。それらも地球環境保護の具体的な一例です。中国でそのような状況が進んでいるのは良い兆候であると思う。

(5)日本、韓国、北朝鮮、中国
日本、韓国、北朝鮮、中国、それぞれ良い所、悪い所があります。いい点を協力しあっていけば、非常に良いものが生まれてくるのではないか。それぞれが持っている偏見だとかいうものを、先ずはなくさないといけない。お互いを理解しようという努力がないといけない。来年になると3・1運動100周年になるが、朝鮮戦争の終結宣言だけでなくて、平和宣言を出来ると思います。それを韓国が具体化するように中心になって担いたい。
私は日本によく来ていますが、韓国は国全体でどうするかという動きも速いし具体的なことを進めているが、日本に来て分かったのは、地方でも具体的な行動だとか政策だとか、住民の動きを見ているといろいろ学ぶことが多い。そういう意味で、韓国の良い点と、日本の良い点をミックスすれば、さらに良い事ができるのではないか。そのようになれば日本と韓国がアジアにおける重要な働きをすることができるのではないか。日韓は頻繁に会って、議論をして、そして具体的な行動をするということをぜひやりたと思う。中国は大国ですが、帝国主義化にならないように平和的な発展を進めるように、我々は絶えず要求していきたい。

(6)韓国の原爆被ばく者
今年の8月6日にハプチョンという韓国の広島と言われる所、被爆者が多い所ですが、そこで平和フォーラムを開催しました。その時に話がでましたが、韓国ではアメリカが広島、長崎に原爆投下したことに対する謝罪と賠償を求める裁判を既に始めた。今度はそれをアメリカ国内でやろうと準備しています。ハプチョンに被爆者がいますが、これは日本の日帝支配で韓国人を日本に連れてきたことにより被曝した訳であるから、勿論それの責任もありますが、同時にアメリカは日本を敗戦に追い込むという口実を基に、戦後の覇権を取る目的で原爆投下をした訳であるから、その責任を当然アメリカに追及しなければならない。そのためには、地球上に原爆があってはいけないのだという大きな目標を掲げての運動をしないといけないということです。iCANが、ノーベル平和賞を貰って核兵器をなくすということで百数十ヵ国も賛成して運動を進めていますが、これは一つの良い例で、それがノーベル平和賞を貰ったということは一つの流れの方向性を示しているのではないかと思う。私は、1945年に最初の原爆投下があった訳ですが、百年後の2045年には地球上から全ての原爆をなくすという運動を是非やらなくてはいけないと思っている。それまで皆さんは健康で長生きして2045年には地球上から原爆をなくすということを是非実現したいと思う。

3.質疑応答での話題
(1)韓国の憲法について
1919年の日帝時代に上海に臨時政府ができた時に憲法の草案ができました。それから日本から独立した後、1948年に正式にできたが、その原型は1919年です。1948年の後、何回も何回も改正しています。1919年の人民共和国の基本は1948年の憲法に引き継がれている。作成者はチョウ・ソアンで、日本で憲法を勉強した知識人。
当時は皇帝がいた訳で、3・1運動というのは韓国の皇室制度をなくしたので、韓国ではそれを革命と言っている。3・1運動は日清戦争で起こったのであるが、そのことによって皇室をなくしたので革命だという。皇室をなくしたという意味は、人民共和国をつくったということになる。その時の憲法第一条にそれが明記され現在の憲法でも第一条に残っています。当時、人民共和国という概念を前にだして憲法をつくったということは革新的な概念でした。
韓国は日本の植民地支配によって初めて教育制度で教育を受け、独立の考えができたと、日本の人は誤解しているが、実は寺小屋のような伝統があり、そこで教育が行われていて、人民共和国という概念がでてくる素地があった。

(2)天皇制
日本の一番大きい問題は天皇制である。明治以降天皇制という形の神話ですが、それは良い面と悪い面がありますが、問題点は天皇制にあると思います。明治維新で国民国家というものを成立させる時に、物凄く速いスピードで列強仲間入りをし、そのシンボルが天皇制です。物凄いスピードで発展したが、直ぐに富国強兵で軍部の方に行って不幸な結果になった。1600年に豊臣秀吉が全国を統一して明を攻めるという野望の下で朝鮮を侵略したのと重なってきます。1500年末から1800年末までの間の300年間は侵略がなく、それから明治時代になって再度侵略することになった。中国は非常に大きな国であるが、帝国主義として侵略していくことは南北朝鮮の関係とかがあって、昔のようにそう簡単にはできない。アジアが協力しあって平和を求める連合になることは可能ではないかと思っている。

Q:天皇制は今後出来る限り形骸化する必要がある。どこの新聞社も天皇制に触れない。タブーになっている。天皇制とローマ法王は類似性があると思うが。天皇制は全ての差別の根源であるのでは。
T:最近の日本の論調は、今上天皇は安倍よりは良いのだという流れさえできている。
I:世界で王がいる国はいくつかあるが、天皇制とは違いがある。天皇制を廃止するというのはできないと思いますが、世界にある王室とか皇室とかとは一緒でなくて、日本の天皇制がどう違うのかはみる必要がある。

(3)市民運動とキリスト教との関わりについて
日帝時代も解放後も、教会が運動に係わってきた。教会の関わりについて否定的な面も残っています。否定的な面の第一は、60年代の朴 正煕を始め歴代の大統領が権力を持つ中で、権力との癒着というものが教会にできました。

(4)澤野先生のコメント
韓国で9条の会を作りたいということや、それに関心がある市民たちがいて、日本の9条の会の動きだとか、日本の平和憲法について話をしてほしいということで、韓国に行ったことがある。キリスト教関係者もいましたし、平和連帯運動の関係者もいました。私の専門は平和主義でして、特に軍隊のない中米のコスタリカ、非武装永世中立国の研究をし、本も書いている。
日本憲法と韓国憲法の比較の話がありましたが、人民共和国という点では韓国憲法の方が優れている。所が、平和憲法という観点から言うとやはり日本の9条の法が優れている。将来的な方向をみれば9条の方が徹底していて、韓国憲法はまだ侵略戦争だけを禁止している。だからベトナム戦争に参加して、5千人ほど戦死している。そういう海外派兵ができる憲法構造になっている。そのような違いはあるのですが、今回の首脳会談で朝鮮半島の戦争終結をするということで、朝鮮半島あるいは東アジアの平和地帯を作ろうという方向性については見えてきたということで、その意味では韓国の市民と日本の市民たちが協力するということは非常に重要になってきている。

(5)朝鮮半島の戦争の終結の宣言と平和宣言について
戦争を終結するには平和にいかないといけない。平和と言うのは最終的にいろんな過程を経て到達するところのことで、今の協定はそこに向かう一つの過程にすぎない。今後、物凄い沢山の論議をしないといけないと思います。それはアメリカの承認を得なければいけないし、大変な議論が必要と思います。何十年という時間をかけて溜まってきた問題を解決するという方向にいかないといけない。朝鮮戦争の後、非常に長い時間が経っているので、解決までにはまだ時間がかかるのではないか。朝鮮戦争の以降も戦争が続いてきて、終結した後も平和体制になるまでには物凄い時間がかかると思います。終結の協定も2年とか3年かかると思います。

T:朝鮮半島の平和といった時に日本に役割が今回言及されていない。北の立場に立ってみるとアメリカの基地がある訳ですから、何時でもそこから核兵器で攻撃できる訳です。朝鮮半島の平和という時にアメリカの基地をなくすとか、日本側の運動が一緒にないと朝鮮半島の平和に結びつかない訳です。北の核兵器非核化が重要だと思い込んでいる。北の非核化で日本に飛んでこないようにしたいというような程度の話であって、朝鮮半島の平和には日本の軍事基地があってはいけないというマスコミの論調のなければ、市民運動もない。
S:朝鮮半島の非核化ばかり言っているけれど。北東アジアの非核が大事である。
I:地域毎の非核化が北東アジア全体の非核化にいかないとダメではないかということです。それが世界の非核化につながるようにしなければならない。
S:世界で非核化地域地帯は、ラテンアメリカ、南太平洋、アフリカ。中央アジア、東南アジアと多くある。この北東アジアにはないのです。
T:アメリカの果たしている非核化に反する体制だとかが問われないことが、この運動の弱点だと思う。
S:日本政府は、非核3原則という物を持っているが、これを生かさない。日本政府の核政策自体が、アメリカの核の傘を求めており、積極的に核廃絶を言えない。

(6)アメリカ政府に原爆投下の責任を求めるという裁判について
今韓国で裁判が始まっています。それは、まず原爆の製造者と投下したアメリカ政府の謝罪と賠償を求める。今は韓国で行っているが、アメリカでやろうとしており、準備段階です。
S:日本でもアメリカの原爆投下については国際法違反という判決が東京地裁(1963年)で出ている。但しアメリカ政府に日本の被ばく者が直接損害賠償もしたが、これは裁判所が認めなかった。ただ原爆の投下は非人道的で、戦前の国際法から見ても既に違法であるという明確な判決が出ている。
T:サンフランシスコ講和条約で日本政府は全て放棄することに署名したので、被ばくに対して要求はできないと言っていますが、あのサンフランシスコ講和条約に日本国民そのものが拘束されるのですか。
S:国民は拘束されないと思います。国民は原爆投下に対する責任を問う事はできる。人道法ですから。
T:韓国は明確でやれます。講和条約は関係ないので
S:1963年の下田判決は、これ以降の世界の核兵器廃絶の問題とか、国際司法裁判所も核兵器の使用は国際法に違反するとの判決に影響を与へ、非常に重要なものである。この判決を韓国の運動にも使ってと思う。
T:来年の3・1節時に、アメリ政府のHPに10万人の署名を集め、韓国人被爆者の現状、米政府の責任について公開質問書を予定しています。法律により米政府は回答しなければならない義務があるそうです。日本からの署名参加を歓迎。
日本国内においてもアジアの平和を求める3・1集会を韓国の国民会議と連帯して開催します(東京韓国YMCAにて)。日本市民及び朝総連との合同の集会を目指します。

                                   以上

( 2018年8月29日 井上氏記)