第4回平和学習会

「平和憲法とこの国の自立を考える」輪読&勉強会 第4回

日時:2017年5月21日 14:30~17:30
場所:大阪南YMCA
講師:澤野義一先生(大阪経済法科大学法学部教授)

1.「日本国憲法」映像(2007年NHN放映)鑑賞
・「憲法研究会」、GHQ,政府等の関係を織り込みながら憲法成立過程を再現している。
(1)「憲法研究会」
・GHQは9日間で憲法草案を作成した。それほど速くできた理由は、7名の知識人の「憲法研究会」がつくった憲法草案をベースにしたからだ。GHQは草案を2日間で英語に翻訳し、マッカーサー憲法草案の種本にしたようだ。マッカーサーの考える新しい民主主義、平和国家の考え方に即しているとしてこれをベースにしてマッカーサー憲法草案ができた。「憲法研究会」の草案に、欠けているものがあり、それはアメリカの憲法にある違憲立法審査権。これは日本人の案にはなかった。それから憲法は国の最高法規。これはアメリカ風の憲法の伝統的なもの。健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(第25条)、これはアメリカ憲法にはない。これはGHQも考えもしなかった。これはドイツのワイマール憲法がベースにある。
今の憲法はGHQによってつくられたという俗説は、ほとんど間違っている。
 (2)自民党の憲法改正草案
・2012年に発表されたが、今の憲法の三大原理、国民主権、平和主義、基本的人権をほとんど否定する内容で、過去に戻るもの。戦後レジームからの脱却は、戦後の体制、憲法を変えるということである。今の憲法の理念に基づく体制をひっくり返したいという方針。安倍首相のバックボ-ンには日本会議、右翼的な宗教団体、政治団体の集まりがいる。今の政治家の8割ぐらいはそのメンバーである。
・今の憲法はどちらかと言えば日本的な発想がないと考えている。宗教的に言えば西洋のキリスト教をベースにした人権思想に基づいている。人間は生まれながらに自由、平等であり、それが基本的人権のもとになり、そのような考えがベースになっている。日本は、共同体という国家があってその中に天皇が頂点にいてその中で人々が生きている。人工的につくることができない共同体の中の権利の発想である。所が、日本憲法と合衆国憲法は、「国家」(state)が成立する前の「社会」(society)の原始的な自然状態を仮定した上で、国家の正当性の契機を契約に求めるもので、人々は社会契約を結ぶ、この契約が憲法である。それでできた憲法に国家権力は拘束される。権力が憲法を破れば国民は憲法権を発動して革命を起こし取り返すことができる。これが普遍的な近代的な国家の考え方です。
自民党の憲法改正草案は、そのような考え方全部が気に食わない。日本の伝統は革命とか,そういうものとは異質の世界で、国民主権も危険な思想だと。最高の権力の主権を君主が持つか、国民が持つか、そういう議論を生む憲法はいらないとか。そこででてくるには、和をもって貴しとなすとか、聖徳太子の17条があれば憲法はいらないとまで言っている人がいる。憲法の条文がなくても、日本の伝統的な目に見えないルールだけでいいと、極端なことを言う人たちがいる。世界で一番早い成文憲法は合衆国憲法で、その翌年にはフランス憲法。フランス革命で憲法ができた。憲法の中で近代的な意味での憲法というには、三権分立制度と国民の権利を保障することが憲法に書かれているのが憲法に値する。所が、自民党の憲法草案はそれとは違うことを言っている。自民党の憲法というのは普遍的な意味の憲法とはずれてしまっている。明治憲法を受け継いでいるわけではない。もっと悪い。明治憲法は近代的で立憲主義、ちょっとうわべだけですが、ドイツのプロイセンの君主制の憲法を伊藤博文がモデルにしてつくった。自民党改憲案はそれよりももっと古臭い。
(3)今回の9条の第3項に自衛隊を明記する改正案。
・これは安倍首相の独自の案ではなく、多分日本会議の幹部が1,2年前に提案していたものを今回公式に言い出したもの。憲法によって自衛隊に市民権を与えるもの。今の憲法の1項、2項を残したまま3項に加えるものであるが、本当は2項の陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない、をなくしたいのだが、これを一気にやると反対が多いので、先ず加憲で自衛隊を合憲化し、これが実現すれば、次は第2項を改憲するという勢力である。これは一つには、野党を抱き込もうということ、野党の一部にそういうことに賛成しそうな人たちがいる。憲法学者の中にもいるし、リベラルというか、護憲派の中にも自衛隊はある程度市民権を得ているので追加するぐらいは良いのではないかという憲法解釈している人がいる。それを抱き込んでしまおうという新しい選択を安倍総理、自民党はしている。護憲派が分裂するかも知れない。そこが注意点です。

.「脱原発と平和の憲法理論」
 第Ⅰ部 原発に関する憲法・人権論 -脱原発による平和と安全―
第1章 原発に関する憲法論の不在と違憲論の提唱
Ⅲ 原発の違憲性(その1)-憲法の基本理念侵害および人権侵害の違憲性
1 原発の基本理念の違憲性
原発が憲法に違反すると主張する論はこれまでほとんどなかった。福島原発事故以降徐々に原発は危険な存在で憲法に違反するのではないかとの意見もでてきた。これを本格的に論証することを試みている。原発は日本国憲法の三大原理の全部を否定するのではないか。特に原発立地の地自治体は差別されている。電力は遠くの都市部に送られ、事故が起これば地方自治体が消滅する。地方自治を否定するもの。
原発の存在を正当化する法律が原子力基本法(1956年)。人類の福祉や平和目的に資する目的であり、その当時は原発憲法違反とは誰も言わなかった、新しい素晴らしい技術であると考えていた。しかし、原発が運用されてきた歴史を見ると、果たして人類の福祉や平和目的に合致するものか。目的を支えている社会的事実との食い違いがはっきりとでてきた。当時原子力基本法は憲法違反とは思っていなかったが、今日的な段階に於いては、この法律は憲法違反になっているのではないか。このような論法は、「立法事実」論として使用され、法律制定時の立法目的が違憲視されていなかったとしても、その後、立法目的に反する事実が明らかになってきた場合、当該法律は違憲・無効とされる。
2 人権侵害の違憲性
原発の運用が人権侵害を引き起こす憲法違反について記述している。
(1)原発事故による種々の個別的人権侵害
原発が起これば様々な基本的人権が侵される。ほとんどが憲法の人権に引っかかると思う。人権の根本は、13条で、全ての人権の基本になるもので、「生命、自由及び幸福追求権の保障」が入っている。これ自体は200年前の米国の憲法にあるものがここに入ってきている。被ばくの関係でいうと、生命権そのものを奪う、人権の根本を奪う。環境権も破壊する。動植物の環境も奪ってしまう。現在および将来の国民の権利を侵害するというのは重要である。基本的人権は今生きている人たちの権利ですが、11条や97条に「現在及び将来の国民の権利も保護されなければならない」とあり、この観点でいうと原発の事故は将来何万年の先まで放射能は消えないので、将来の権利保障にも反する。
大飯原発訴訟の判決で、「生命・生存を基礎とする人格権が侵される」と述べている。高裁ではこの判決が覆された。最高裁の息のかかった裁判官を福井県に集め、次々と再稼働を認めている。

(2)恐怖と欠乏からの自由の侵害
憲法の前文に書いてあります「恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」の文言を、この原発の問題に当てはめて考えることができるのではないかを論考した。
(3) 平和的生存権の侵害
原発の存在が問題になる。政府は北朝鮮がミサイルを撃ち込んでくると言いながら、何故原発を稼働させるのかという矛盾がある。
原発がテロ等のターゲットにされると防衛のしようがない。
(4) 平等原則の侵害

  Ⅳ 原発の違憲性(その2)-憲法9条侵害の違憲性
ここは憲法原発9条からみた原発の違憲性を述べている。
1 原発=「核潜在力」論
基本的人権から原発の違憲性を論ずるのは分かりやすいが、9条から原発の違憲性を綸ずることはこれまでなかった。著者(澤野)が初めてです。
9条の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」の戦力の解釈になる。例えば警察権力は戦力に当たるか当たらないのか。あるいは日本にいる米軍が日本の戦力に該当するかどうか。いずれも軍事力に関わる戦力論になっていた。そこに原発が入るかどうかの議論は全くなかった。原発が外国の侵略に対する核抑止力の一種ではないか。原発は核兵器に転用できるから、核武装できる潜在的な力を持っている。戦力というのは、日ごろは直接に軍事力ではないが、戦争になると軍事力に転用できる潜在的な力を持ったものを戦力なんだという議論は前にあったが。それに原発が入るのではないかという解釈を提案した。
2 「核潜在力」=違憲の「戦力」
平和学者のガルトゥングは積極的平和を提案した。消極的平和は戦争がない状態とそれを維持することを意味するが、積極的平和は戦争の潜在的原因となる社会的な構造的暴力(差別・偏見・劣悪な環境など)がない状態、およびその構造的暴力なくすことを意味する。戦争が起きる条件をなくすることが積極的平和という概念で捉える。安倍首相の積極的平和とは全く違う。原発は一種の構造的暴力に該当する。そうすると戦争を引き起こす主要な要因になるようなものだから、これを認めることは積極的平和に反する。
3 コスタリカ最高裁憲法法廷判決における原発違憲論
コスタリカ政府が「プルトニウムやトリウムの析出、核燃料の製造および核反応機の製造を認める」という政令を制定したことに対して市民が「それはマズイのではないですか。それは原発をつくることになってしまって戦争に繋がることになる。戦争をしない憲法の下では憲法違反ではないか。」と裁判をした。最高裁ではそうだということで違憲無効になった。憲法では原発を直接禁止する条項はない。
オーストリアの憲法には原発を禁止する条項がある。

以上

2017年6月22日 井上浩氏