第2回平和学習会

「平和憲法とこの国の自立を考える」輪読&勉強会 第2回

日時:2017年3月25日 14:00~30
場所:大阪南YMCA
講師:澤野義一先生(大阪経済法科大学法学部教授)

1.教材
澤野先生の著書「脱原発と平和の憲法理論」
2.NHK番組「焼か跡から生まれた 憲法草案」
鈴木安蔵らの「憲法研究会」を視聴
(1)森戸辰男について
・無政府主義の研究をしていて、「森戸事件」で検挙され東大を停職。
・ドイツの留学の経験があり、そこでワイマール憲法を学び、その中に生存権(日本国憲法25条)に相当するものがあり、森戸は知っていた。
・戦中は蟄居していた状態で、戦後は社会党から議員になって生存権を憲法に入れる事を主張した。
 (2)ベアテ・シロタについて
・GHQの中で約20人が日本国憲法草案を作成した。その中で女性が一人、ベアテ・シロタがいた。
・彼女も「生存権」を主張していた。彼女もドイツ留学の経験があり、ワイマール憲法を知っていた。
・森戸辰男をシロタが一緒になって草案をだした。
(3)鈴木安蔵
・「憲法研究会」の七人の中で鈴木だけが憲法学者。クリスチャン。
・京大哲学科入学後、河上肇の影響を受け、河上の居た経済学部に転じる。そこで社会主義の研究をしていたが、社会主義を研究すること自体が危険であるとして「京都学連事件」で一番最初に治安維持法を適用され検挙される。その後退学する。
・明治の自由民権運動家の憲法案の発掘(植木枝盛ら)、研究を行い、その成果が日本国憲法草案に活かされている。
(4)「憲法研究会」
・日本で一番早く民間人として7名が憲法草案を作り上げ、1945年12月暮に日本政府、GHQ、報道機関に配布した。日本政府は無視した。
・GHQでは直ちに英語に翻訳し読みまわしされた。日本政府が書いてきた草案は明治憲法と変わらないとして、「憲法研究会」の草案をベースにした憲法を1週間程度で作成。
・天皇は「国家的儀礼ヲ司ル」として儀礼的な天皇制の存続を認めた。
・基本的人権は「憲法研究会」案が影響していると言える。
・国民主権も「憲法研究会」案が影響している。
・戦争放棄は「憲法研究会」にない。軍事に関することはない。幣原首相とマッカーサーの合作という説もありますが、定説はない。私(澤野)はポツダム宣言を憲法化したと考えている。6項目「軍国主義勢力の排除」。9項目「軍隊の解体」を憲法化すれば、一切の戦力放棄になる。
・マッカーサーの3つのメモ
天皇を残す、戦争放棄、封建制度の廃止
 (5)日本憲法の押し付け論
GHQが一方的に日本に憲法を押し付けたと一般的に言われているが、これはかなり問題がある。占領されており、新しい憲法をつくるようにと言われたのですから、それだけを見ると押し付けられたという事実はある。しかし、中身を見ると鈴木安蔵の研究した成果が相当入っている。戦争に負けたことによって戦前につくられていた民間人の憲法草案が復活したのが今の憲法であると理解した方が良い。
 (6)日本国憲法の国民について
日本語約としては、人民とか市民ではなく国民を使っている。国民は英語ではnationですが、英語の原案はpeople、人々である。国民というのは日本国籍を持つことですが、マッカーサーの原案では、外国籍も含むとなっていたが、日本憲法では削除された。外国人も法の下の平等でほとんどの基本的人権は日本人と同等。問題になのは参政権と生存権、社会保障は例外扱いで政策運用でしたらどうですかということになっている。最高裁判所は、国政選挙への参加は憲法15条があるから認められないが、地方選挙について 憲法は外国人の参政権を禁止していない(93条)としている。従って、国会で法律をつくれば憲法違反でなく可能である。
 (7)日本国憲法は最高か?
全てが素晴らしい訳ではない。護憲運動で言っているのは「平和憲法」、それと若干他の国にない条文、例えば20条(信教の自由、政教の分離)は世界一進んでいる。
(8)積極的平和主義
安倍首相の積極的平和主義は英語ではproactive、事前に軍事的に対処できるという意味。軍事力を使って平和を実現する意味。コスタリカではactiveを使用。

3.前回の教材の範囲の要約
 (1)序章 日本国憲法の平和主義と各国憲法の平和・安全保障方式
日本国憲法が考えているものはどういうものかを述べ、戦後の外国の憲法の平和と戦争に関する条文を比較した。

Ⅱ 日本国憲法の平和主義の特質
日本国憲法の三大原理、基本的人権、国民主権、平和主義。
外国の憲法は、平和主義とまでは言えないのでは。軍隊、徴兵を認めているので9条ほど条文上は徹底していない。日本国憲法は平和主義と主義が付くくらい徹底している。世界の憲法は国連ができて戦争を止めましょうという平和憲法です。

Ⅲ 各国憲法の平和・安全保障方式、
1 国際平和推進の理念の提示
世界の多くの憲法には「国際平和への強調」、「世界平和への貢献」などの表現は多く見られる。
2 戦争放棄
世界の憲法でも一般的。
1928年の不戦条約では「国際紛争解決のための戦争と国家の政策の手段としての戦争放棄」は今の憲法にも書かれているが、世界では一般化した。
3 国際平和協調と主権委譲・主権制限
第二次世界大戦後の世界の憲法には、自国の主権の一部を国際機構に移譲するものが出現した。特にヨーロッパではEUに一部(貨幣通過、司法等)を移譲。

4 軍備の保持と不保持
世界の憲法は、9条の1項と同じような項目はあるが、しかし戦争を放棄するが例外的に自衛のための戦争は認めている。9条2項は、戦争しないことを具体的にどうやって担保するかを記載している。手段として戦力を持たない、国家として交戦権を禁止している。
世界で軍隊を持っていない国は27ケ国ある。この中で憲法で常備軍を保持しないとはっきり書いたのは4ケ国。
軍縮を憲法で明記する国もある。
5 核兵器保有と原発の禁止
この問題を世界の憲法はどう扱っているかを述べた。
原発が日本国憲法の9条違反ということを主張した。世界では190程度の憲法があり、この中で原発をはっきり禁止している3ケ国ある。オーストリアは明確に原発を禁止している。パラオやミクロネシアは、ほぼ似たものがある。
コスタリカは憲法で原発を禁止してはないが、最高裁判所が「平和の価値」や「健全な環境への権利」を侵害するとして違憲無効とした。
日本国憲法の9条2項の陸海軍その他の戦力の「その他」は戦争に使われるもの、従って原発は核兵器の製造に繋がるので、戦力になる潜在的な力で、これに相当すると考える。従って、原発は9条違反である。
6 平和への権利の推進
前文で、第二段落で「われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」とあり、ここに平和的生存権が明記された。世界で初めて平和的に生きる権利を明記した。その後、国連などで注目されたし、各国の憲法にも入りだした。
自民党の憲法草案では削除されている。
一番新しい動きは、国連人権理事会で「平和への権利宣言」を作成する動きがある。昨年の12月に「平和への権利宣言」を採択しました。賛成は131ケ国で日本は反対した。
平和的に生きる点を追及すると、徴兵制と矛盾する。日本憲法は平和主義が徹底しているので。徴兵制については何も書いてない。良心的拒否権があるかないも書いてない。外国の憲法には、兵役義務が当然かれている。但し、平和的生存権、戦争で人を殺すことが出来ないという宗教的理由、宗教的良心があるので、憲法上それも認めている。その矛盾があるので憲法上、良心的拒否権も認めようということになっている。良心については審査される。
韓国は良心的拒否権を認めていないので刑務所に行く。
自衛隊のイラク派兵で名古屋高裁では、徴兵制は平和的生存権を侵すので憲法違反であると判決が結審している。
7 外国軍事基地不設置と中立政策
外国の憲法で外国の基地は認めませんと明記したものは幾つかある。
憲法で中立国と明記したものもある。
「永世中立国」とはっきり憲法で定めたのがオーストリア、カンボジア、モルドヴァ、トクルメニスタン。国際社会に「永世中立国」として認められるには、「中立宣言、国際会議あるいは国連によって国際法的にも永世中立が承認される必要がある。
非同盟諸国会議があり、同盟に付かないことで米ソの冷戦時代に唱えられた政治的な中立主義で、中立とは少し違って、集団的自衛権や軍事同盟締結を禁止していない。
8 日本の平和主義憲法による世界平和樹立の課題。
憲法9条を世界に広めようという運動がある。広め方としては、9条の条文自体を知ってもらうこともある、9条の何を知ってもらうのか。中身の問題もある。世界の現状の「平和憲法」をさらに良いものしてもらうように主張したらどうかとか。或いは国連の改革もある。

以上

2017年4月23日 井上浩氏